小林夫妻のご自宅は、福島県いわき市の海岸から500メートル程のところにあります。知的障がい者の方々を迎えて、無農薬・有機栽培の里芋、じゃがいも、株立ち春菊、そらまめなどを生産していました。
愛犬・花凛はゴールデンレトリバーのMIX。実は母犬のお腹にいた時に、飼い主のブリーダーに処分されてしまう恐れがあったそうです。それは、母犬は純血種で、父犬が雑種だったから…。この母犬を診ていた知り合いの獣医師から「小林さんが子犬をもらってくれるなら、産ますこともできるんだ」と言われ、大型犬は考えていなかったご主人も反対できなくなり、小林家に迎えられることになりました。その花凛は今や9歳になりました。
あの日の午後2時46分、花凛は大地を揺るがす地震に襲われました。
ご主人は、知的障がい者の方10名とハウスで農作業を行っていました。すぐに自宅に戻りラジオをつけると「3メートルの津波がくる」と聞いたので、91歳のお母さんと皆を車に乗せました。ところが、それが精一杯で、庭にいた花凛を置いてきてしまったのです!
その頃小林さんの奥さんは、障がい者の方とパン屋で働いていました。3時半ごろ自宅付近まで帰ったものの、すでにあたりは膝上まで海水が押し寄せていて、消防団が道を封鎖して通してもらうことができません。仕方なく、避難場所に指定されていた近くの小学校に行きました。家族とも会えず、大きな余震が続き不安はつのる一方。その後、やっとご主人と連絡がとれ一安心したのですが、花凛が一緒ではないことを知りました。カミナリすら怖がる花凛。花凛を助けられなかった悲しみが奥さんの中で大きくなっていきました。
そして日も落ちて真っ暗になった頃、夜7時をまわっていたでしょうか。避難所に現れたひとりの女性が、奥さんの顔を見るなり言いました。
「花凛、連れてきたよ!」
そして、花凛は押し倒しそうな勢いで、奥さんに飛びついてきたのでした!停電で真っ暗な中、聞こえてくる花凛の興奮した息遣いに、奥さんも心からホッとしました。よく見ると、首輪につないでいた鎖を引きずっているのに気づき、救出した時の切迫感を感じたのでした。
花凛を助け、連れてきてくれたのはご近所さんでした。この方も、職場から家に戻ろうとした時、やはり消防団に止められたそうです。でもその時、小林家の庭に積み上げられた土砂の上にしょんぼり避難している花凛の姿が目に入り、消防団員を説得して助けに行ってくれたとのこと。消防団の人は一緒に来てくれたものの、「大きい犬はさわれない」と、体重30キロ近い犬の救出は、女性ひとりの手に委ねられたのです!その後この方は家族を探して車を走らせた時、花凛がいてくれて寒さをしのげたと、後で話してくれました。
感動の再会を果たしたものの、震度5にもなる余震が頻繁にあり、そのたびに周囲の人々が悲鳴をあげるので、花凛は尻尾を丸めて伏せたまま、ただただ怯えるばかり。ご主人と合流した後は親戚の家を目指し、避難所を後にしました。
家族が無事で何よりでしたが震災後も大変でした。家の修理や農地の塩害、お米やいちご、夏野菜は作れなくなりました。そして障がい者の方の受け入れは中止に。そんな中、2012年復興産業として始まった「ふくしまオーガニックコットンプロジェクト」と出会い、綿花づくりをスタートさせました。すると、各地からボランティアが訪れるようになり、たくさんの人と働く風景がよみがえりつつあるのです。
そして花凛は、障がい者の方々のアイドルから、ボランティアたちのアイドル犬に!でもおっとりかわいいという印象の花凛ですが、形相を一転させて威嚇することもあると聞きました。震災後は、避難してきた人や復興作業に来る人など、多くの見知らぬ人たちが町に出入りするようになりました。時には怪しげな人もいるそうです。「テリトリーを守ろうとする本能でしょうが、私たちを守ろうとしている、やっぱり家族だね、といいように解釈しています。」と奥さん。「花凛(カリン)」という名は<凛とした花のように育て>との思いからつけたそうです。
まだまだ大変な小林家ですが、花凛はずっと、大好きなお父さんとお母さんをサポートしてくれることでしょう!
小林さんご夫妻と愛犬の花凛には、ボランティア活動のために福島を訪れた際に出会い、おふたりからうかがつた震災当時の様子をレポートさせていただきました。
小林ご夫妻が営む「いわき夏井ふぁーむ」はFacebookを更新中!ぜひ訪れてください!





